吉本邦晴

私は吉本邦晴です。僭越ながらご指名がありましたのでお話をさせていただきます。私は30年余、商社生活をして、56歳の時に、第2の人生、ゴルフ業界に入りました。そして、今、ようやく“遊行の期”に入りまして、私のライフワークである人材育成のための奨学金事業を元気にエンジョイしております。

 当年とって、85歳、健康を謳歌しながら、東西を走りまわっておりますのが今の私の人生ですが、これを支えていただいたのが一期一会の数多い方々です。これから、一期一会のお話しをさせていただきますが、その前に、これから80歳を迎える方々、既に80歳を超えた方々がたくさんおられると思います。80歳という歳を見てみますと、一日24時間、一年365日に80年をかけますと700、800時間という長い時間になります。奇しくも、“七転び八起き”という語呂なのです。私が80歳になった時、これまでの人生で七回転び、そして八回起き上がることができたかを考えてみますと。起き上がる時にまわりの人の顔がたくさん出てきました。起き上がれたのは、一期一会の人々の支えがあったからだと思います。

 一つの例を申し上げますと、皆さんは南郷三郎さんのお名前をお聞きになったと思います。ニチメンの大変古い大先輩です。日本綿花で9年間監査役を務め、日綿の中興の祖と言われる喜多又蔵社長の後を引き継いで、1932年、第8代社長になられて9年間、日綿のカジ取りをされた方です。関西財界はもとより日本財界でも非常に顔の広い方でした。日綿が無配転落した1966年以降、非常に厳しい時期でした。その時に、私は神林社長のもとで秘書課長を務めておりました。 ある事情がございまして、どうしても南郷三郎さんを相談役にお迎えしたいという事態が起こりました。当時、南郷さんは97歳、お元気ですが完全に引退して東京に住んでおられました。理由をお話しして、“是非、相談役になっていただきたいとお願いしたら、“よろしい”と快諾されました。

 月に一回、日綿に来られ、 “自分はグランドホテルには泊まりません、ここがいいのです”と申され、中之島ビルの裏側にあった和室に泊まられました。彼の日綿での日課は、月一回来訪して、必ず神戸ゴルフ・クラブを訪問することでした。私は毎回お供して、ご一緒にゴルフ・クラブに参りました。

 話を戻しますと、南郷三郎さんは講道館柔道の嘉納治五郎さんの甥でして、非常にスポーツ好きで、若くして関西のゴルフ場の創設に関与して、名門の鳴尾ゴルフ、廣野ゴルフ、舞子ゴルフ等、名だたるコースを手掛けてこられました。現在も続いている日本ゴルフ連盟(J.G.C)の初代シニア・チェアマンでもありました。彼の銅像は、今も関西のゴルフ場で見られるとのことです。六甲山の山頂800mに日本最古の神戸ゴルフ倶楽部が現存しておりますが、私がお供してお連れしたのはこのゴルフ場です。神戸港を真下に見下ろすPar 3の一番ティーからショットするのですが、97歳なので腰が曲がりません。そこで私がティアップしてあげて、“ここですよ”というと、ニコニコしてドライバーショットするとボールは真下の広い、きれいなグリーンにポンと乗る。その時の彼のにこやかなしたり顔を今も鮮明に覚えております。それから約半世紀、私は一昨年末、散歩がてらにこのゴルフ場を訪れました。クラブ・ハウスに南郷さんの写真があったのです。50代半ばの現在の支配人に、“この人、どなたか知ってますか”と聞いたら、“よく知らないんです、先輩が置いていったんです”と、“あんたなあ、この方は・・・・”と、南郷伝を彼にしっかりと植えつけておきました。“そんな偉い方だったんですか”、“だいたい、名前も書いてないじゃないか、「日綿実業株式会社元社長 南郷三郎」とすぐに書きなさい”と、支配人にお願いしておきました。
人と人とのふれあい、一期一会というのはとっても大事な一人一人の人間の人生のひとコマです。考えるに、日本綿花、日綿実業、ニチメンと百有余年、会社の中もすべて人と人との繋がりで出来上がっている集団です。 皆さんが元気で顔を会わせ、色んな昔話ができるのもニチメン生活の中で人と人とのつながりで、助けられて、こうして皆さんが元気なお姿で出てくることができたわけです。大変幸せなことだと思います。
 人と人との出会いと楽しみ、そして別れの悲しみ。これが一期一会ですが、人は一人では生きられず、こうして皆さんとご一緒に昔の思い出と今の幸せを語り合うことが人生の中で一番の至福のひとときかと思います。

今日、こうして皆さんがお元気で参集され、“また、来年もくるぞ”という思いを秘めながら、お互いに過去の懐かしかったことを話し合っていただき、皆さんの健康に対する乾杯と、同時に、ニチメンと日商岩井が合併し、立派な双日という会社ができ17年。

 藤本社長のお話にもありましたように商社としてしっかりとした地盤を築かれ、立派な指導者を得て、ニチメンのDNAを持った双日という会社が世界に雄飛して行くのをこれからの楽しみにしながら、ますますの双日のご発展を心から祈念申し上げます。

今日は簡単ではございますが乾杯のごあいさつとさせていただきます。
それでは、社友会の皆さん、並びに双日㈱のますますの発展を祈念しまして、乾杯!
ありがとうございました。