戦争終結後もフィリッピン・ルバング島に30年潜伏し、残置謀者の任務を全うした、故小野田寛郎・元日本陸軍少尉をモデルにした映画「ONODA 1万夜を超えて」が10月8日日本で全国公開された。「東宝シネマズ」ほか全国劇場で公開されている。

小野田少尉は日本帰国後、戦後の日本の風潮に失望され、1年足らずで新天地をブラジルに求めて、妻町枝さんと移民された。筆者はたまたま、ニチメン(現双日)・リオデジヤネイロ支店駐在中の1977年に面識ができて以来、ご夫妻にはブラジル、東京と実に40年近くにわたり、親交をいただいた。

筆者が1992年に東京に設立した「日本ビジネスインテリジェンス協会」創立記念国際情報大会では日本側参加者を代表し、ドクター中松とともに顧問としてご挨拶をいただいた。
以来、機会あるごとに町枝夫人と同協会情報研究会にご参加、ご指導願った。
日本陸軍情報将校として情報の収集、分析にはことのほか厳しく、「情報源は信頼に足るか」、「その情報の信憑性はどうか」を常に吟味することの大切さを強調された。

20年ぶりに再訪されたルバング島にも同行を勧められ、得難い貴重な体験をさせていただいた。フィリッピン空軍が提供したヘリコプタ-から同乗の小野田少尉ともども見下ろしたジャングルはとても人の住めるようなところでなく、この大密林で戦後30年も戦われた小野田少尉の人智を超えた生き様に強い感銘を受けたことを今でもありありと思い出す。

この小野田寛郎少尉をモデルにした映画「ONODA」を企画、演出したのは日本人ではなく、フランスの40歳の若手新鋭 アルチュール・アラリ監督である。映画はフランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、日本の国際共同製作で、フィリッピン人俳優も出演。アラリ監督は『小野田さんというキャラクターへの「共感」が重要だったが、脚本を書き進める上で「倫理や道徳の問題にもっと正面から向き合うべきでは」と考え、その複雑な心情に迫ると同時に島民への暴力なども描きこんだという』(佐藤美鈴・朝日新聞2021年10月8日)。
アラリ監督は本作を、カンヌ映画祭の「ある視点」部門に出品。「すでに古典の風格を漂わせ、現地では(メインの)コンペ部門に入れるべきだったと主張する外国人記者の声を何度も聞いた。同じ顔ばかり起用する日本の業界キャステイングと無縁。作品に心身を捧げるべく集まった俳優陣の演技のアンサンブルに心が震えた」(映画ジャーナリスト 林 瑞絵・日本経済新聞 2021年10月8日夕刊)。

故小野田寛郎少尉は日本ビジネスインテリジェンス協会の永久顧問である。協会会員各位がコロナ禍下ながら上映館のTOHOシネマズに足を運ばれることを希望する次第だ。

小野田夫妻(右から二人目と三人目)と一緒に記念撮影をする中川夫妻(左端と右端)(2001年8月23日「日本ビジネスインテリジェンス協会」懇親会にて)※写真提供:中川十郎氏
小野田夫妻(右から二人目と三人目)と一緒に記念撮影をする中川夫妻(左端と右端)
(2001年8月23日「日本ビジネスインテリジェンス協会」懇親会にて)
※写真提供:中川十郎氏