この原稿は、本年3月に地方のライオンズクラブよりBREXITをイギリスやフランスの一般国民や市民や庶民がどう見ているのか、どうとらえているのか話してほしいと依頼を受け、行った講演を基にしております。

この原稿を書いているのは4月の半ばですので講演の内容を実態に合わせ手直しはさせていただいていますが、これからも事態の変化はありましょうが現状を基に脱稿しました。

さて、わたくしはフランスに17年、イギリスに6年住みました。イギリスに住む前に何回もイギリスに出張したり、私的な旅行をしていました。そうしたことからイギリスに住むまではイギリスは少し違うけどヨーロッパの一国という印象を持っていました。ところが、住んで見て、フランスとイギリスの違いに驚かされました。特にフランスとイギリスはドバー海峡を挟んだ、人が泳いで渡れる国同士なのに一衣帯水どころか政治、経済、文化、庶民感覚とすべてにおいて大きな隔たりがあり、互いにこの隔たりをなくそうとするよりさらに違えようとしているのではないかと思わせるところが多々あり驚かされました。

会員の皆様も、歴史を振り返った場合イギリスが大陸ヨーロッパのpower of balanceの役を担い、ある時はドイツを助け(NAPOLEON時代)、第一次/二次大戦でもドイツを除くフランスを含むヨーロッパ諸国を助ける役を果たしたのはご存知の通りです。

さらには、18/19世紀の世界における覇権争いや植民地争奪戦でのイギリスの勝利、その後の大英帝国の出現で、イギリス国民はヨーロッパの盟主としての自覚と自負を持つことになったと思います。そうしたことは、第二次大戦の後の世界を討議したヤルタ会議にフランスをイギリスは招致することを拒否したことにも表れているし、後にフランスの大統領となるDE GAULEがロンドンに亡命し、そこに臨時政府を設け大陸のフランス解放軍を指揮したことをCHURCHILLは全く評価せず、卑怯者呼ばわりせんばかりの嫌いようでした。

一方、フランスは、常にフランスの邪魔をするイギリス、そして、フランスの誇る英雄,JEANNE D’ARCの火あぶり、NAPOLEONの島流しと毒殺(いまだに多くのフランス人は毒殺を信じている)などを行ったイギリスを心底敵対視する風潮が感じられるし、イギリスよりあれほどひどい目にあわされているドイツにより親しさを持っているのが多くのフランス国民でないかと私は感じています。

閑話休題ではありますが、両国に住んだことで両国の国民、庶民感覚からするといがみ合いの方が、手を携え一緒に歩む姿よリ納得の行く数々の事象を挙げられます。例えば、食文化では、「食べるために生きる」フランスと「生きるために食べる」イギリスの違い、これは、みなさんも納得行くことですよね(ところで日本人はどちらでしょうかね?)。蛙とカタツムリを食す野蛮人のフランス人、真っ黒こげのSTEAKを好む味音痴のイギリス人と互いをけなし、coffee嗜好のフランスとTEAが圧倒するイギリス、右側通行と左側通行、500m置きにパン屋のあるフランスと同じ間隔でDRUG STOREのあるイギリス。慇懃無礼(gentleman)の国のイギリスと気障と伊達を好む(GENTILHOMME)のフランス、HUMOURのイギリスとESPRITのフランスと違いを列挙すれば切りないが、庶民感覚では(下世話な話で申し訳ないが)避妊具をフランスでは、「CAPOTE ANGLAISE」(兵士のコート)イギリスでは「FRENCH LETTERと称し相手を侮辱するような単語を生んでいますが、この辺が庶民の互いの国への気持ちを表しているのではと思います。

もう一つの例ですが、フランスの地中海に面しFOS SUR MERという町があります。ここに、フランスの新しい製鉄所が開かれ,高炉で使われる耐火煉瓦の入札があり、わたくしも日本のレンガを担いで応札しました。フランス、ドイツ、イギリスのレンガ会社が入札に応じました。結果は、日本が一番札、イギリスが二番札となりましたが、製鉄側は、ドイツを選びました。日本とイギリスに対する落札できなかった理由説明はいとも明確で「OUT OF CONTINENT」のSUPPLIERよりは買わないというものでした。イギリス人のSALES MANは日本を大陸外として外すのはわかるがどうしてイギリスがヨーロッパ外なのだと憤慨し、今後フランスの鋼材は買わないように上司に説得すると息巻いていましたが、これなどはまさに両国の感情であって、理性の欠けらもないが当然と受け止められる感覚です。

以上の例を見ることで皆さん、この両国の国民や庶民の感覚には、手を携え共同歩調をとることに反発するというより単に一緒になどなる気ないと言った感覚的衝動が勝りあの国民選挙の結果となったことをお判りになっていただけたと思いますがいかがですか?

特に、最近のヨーロッパは極右の台頭が目立ち、フランスでは「黄色ジャケット」を着た庶民が年末より毎週終末デモ行進をして大統領退陣を求める騒ぎが続いています。一方のイギリスは庶民の力をないがしろにし、KYAMERON前首相は庶民のヨーロッパに対する「感情」を読み違いあの国民選挙の結果を生んでしまいました。 こうした事態は、おそらく数世紀にもわたる両国における一握りのエリート層に対する教育の付けでないかと思います。イギリスはOXFORDやCAMBRIDGE出身の政治家が長年政権を担い、フランスはENA(高等行政学院)出身者が政権TOPに着くことが多く、庶民、一般市民の声に耳をかさず、あるいは、庶民の声を無視してきた結果と言えると思います。

すなわち、最終的には大衆を無視したことの恐ろしさでありフランスはフランス革命や1968年の5月革命で示された市民の力を忘れたことが現在の政治不安を生んでいるし、イギリスはいまだに議会が支離滅裂な状態にあって市民や庶民や一般国民が忘れ去られ再び一般国民の爆発が起こるのではと危惧されます。

従い、最終的にこの6か月間でどんな結論が出るのか予測は困難だが、どんな結論であれ今回のBREXIT問題はイギリスにとり高い代償を払う結果になるだろうと思われます。イギリス国民が真二つに分かれ今後に新たなしこりが残ることは自明であり、その解消には多大な時間と労力が必要となることも容易に予測でき、イギリスという大国の存在がどうなるのか興味のあるところです。

庶民の感覚の恐ろしさを痛感させられるBREXITです。